

私は2016年まで、とある企業の正社員として働いていました。
それはそれはごく普通のサラリーマンで、何か特殊な技能があるわけでもなく、会社を一歩出てしまえば私の名前は何の意味も持ちません。
何年働いたところで会社の歯車のひとつでしかなく、むしろ何年も同じ場所にいたからこそ「私たちは替えのきく歯車である必要があるんだ」と理解できたんだと思います。
会社員としての欠陥がないことはわかっていたし、上司にも同僚にも信頼されていた気がします。真面目で勤勉で“純日本人的”な社員でした。
それでも「陶芸を生業にしよう!」と会社を辞めた。
私が歩いていた道はきっと私が定年するまでは安定していたかもしれないのに、あえてその道から外れてみることにしたんです。
その理由は「今の生き方に満足できなかった」から。
十分な給料をもらい、ホワイトな働き方ができ、人間関係にも問題のない会社だったけれど、私は幸せじゃなかったんです。
そうしておそるおそる、だけど勢いよく道を外れてみたら、そこにあったのは私が欲しかった「幸せ」でした。
収入も減り、働く時間は増え、睡眠時間は激減した今。それでも幸福度がぐんと上がったのには、ちゃんと理由がありました。
①自分の意志だけで決断し行動できる幸せ
会社員の頃は何をするにも上司の判断が必要で、3つも4つもある承認印の欄をすべて埋めるために必要な期間は最低でも2週間。
ホウレンソウ(報告・連絡・相談)をできることが「いい社員」の条件だったし、むしろ報告したり相談することで上司が責任をとってくれるようになる。
それが一般的な会社員だと思います。
だけどフリーランスとして仕事をするようになった今、すべての意思決定権を自分が持つようになりました。
何かを決めるのも自分。
決めた通りに動くのも自分。
うまくいかなかったり、誰かに迷惑をかけたとき、誰のせいにもせず自分で全責任を負わなければいけないというプレッシャーはある。
でも、「思い立ったが吉日」とばかりに思いついたことをどんどん試すことができる今の自由さがとても幸せだなぁと感じるのです。
②自分の名前に意味を持たせられる幸せ
会社員時代の名刺は、本人の名前ではなく「会社名」「部署名」「肩書き」に意味があって。
取引先の人が丁寧に接してくれるのも、お伺いを立ててくれるのも、すべては会社のネームバリューあってのこと。
決して「私だから」特別扱いしてくれているわけじゃないんです。
つまり、名刺から会社名も部署名も肩書きもなくしてしまえば、その名前には何の価値もなかった。(そして実際に私は特別な技能も持っていなかった)
それが今、私の名前を聞いて「陶芸をやっている人だ」とか「会ってみたい」と言ってもらえるようになりました。
私が何をやっているかも関係しているけれど、私の名前自体に意味が宿った。
それがとても嬉しいんです。
③お客様の喜ぶ声を聞くことができる幸せ
私が勤めていた会社自体は、世の中に価値あるものを提供していました。それは胸を張って言える。
だけどお客様(=エンドユーザー)の声が、日常的に私のところに届くなんてことはなかった。
きっとたくさんの笑顔や喜びの声、ときには要望やクレームなんかも存在していたに違いないんだけれど、聞こえないものは「ないもの」と同じになってしまう。
「何のために働いているんだろう」
そう思い悩むことは一度や二度じゃありませんでした。自分の仕事の意義を見出したかったけれど、それはお客様の声なしには叶わなかったんです。
今は、インターネットを介していることが多いけれど、直接お客様とやりとりし声を聞くことができるようになりました。
「すごく可愛い」
「買ってよかった」
「毎日使いたい」
SNSやメールを通して日々私のところに届くメッセージは、そのどれもが私の胸を震わせます。
あぁ、私はこの仕事をやってよかった。
私のやったことには、意味があった。
そう思えて、幸せで胸がいっぱいになるんです。
幸せの形はひとつじゃないし、ましてや正解なんてない
ここに書いた3つの幸せは、あくまで私の場合です。
自分で意思決定しない幸せも、自分の名前を出さずに済む幸せも、お客様の声を聞かない幸せもあると思います。
どんな働き方をすれば自分が幸せになれるのか。それを試して知ることができるのは本人だけ。
だから私は思い切って道を外れ、新しい生き方にチャレンジしてみたんです。
今の生き方に幸せを感じられないのなら、他の生き方を試してみるしかない。
それは自分の責任のもと決定して行動する必要があるけれど、他の人に聞いたって答えなんて出てこないんです。
誰もが私のような生き方をすべきだなんてとても思いませんが、満足できないことがあるなら色んな生き方・働き方を試してみてください。
きっといつか、自分だけの幸せの形を見つけることができるはずです。
ユキガオ
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