こんにちは、ユキガオ(@yukigao_22)です。
平成生まれの直木賞作家・朝井リョウさんの「何者 」を読みました。
この作品は、小説の中に初めてTwitterが利用されたと話題になりましたよね。まさにTwitterやFacebookを使いこなす「SNS世代」の大学生6人が主人公の物語。
その6人はみんなで情報共有しながら就活戦線に臨んだり自分の道を探したりする、青春ストーリーです。
「がんばる人」を嘲笑する世界
必死になって自分をアピールしている人や、報われない努力を続けているように見える人。そんな人たちを心のどこかで馬鹿にする気持ち、ありませんか?
幼い頃は、誰しも一生懸命に頑張っていたはずなのに、いつしか「そんなの無理に決まってる」「頑張ったって無駄」「そういう姿、イタい」って思うようなっていく。そしてそれを「大人になる」ことだと思い込んでしまう。
斜に構えて物事を批評し、周りの人たちを観察する主人公・拓人は、自分の道を進む友人や、痛々しいほどのアピールをしながら就活に励む友人のことを少し馬鹿にしています。
夢を追うなんて馬鹿げている、「頑張ってますアピール」なんてイタい、と。
痛々しくても、もがくしかない現実
そんな拓人自身もなかなか内定をもらうことができず、苦しむ毎日を送ります。
同じアパートに住む隆良も、就活に励む周りの人たちを馬鹿にしつつ、自分も真剣に就活を始めて…
そんな中、留学経験もあってグローバル企業を目指していた瑞月さんが「ちゃんと就職しないとダメなんだ」と、夢を諦めて現実を見ようとするを見た拓人は、こんなことを思うのです。
もっともっとがんばれる、じゃない。そんな、何も形になっていない時点で自分の努力だけをアピールしている場合ではない。何のためにとか、誰のためにとか、そんなこと気にしている場合じゃない。本当の「がんばる」は、インターネットやSNS上のどこにも転がっていない。
自分じゃない何者かになろうとして就職をする人も多くいる中で、現実的な選択を余儀なくされている瑞月さんに、「がんばる」という言葉の重みを教わります。
自分で選択するしかない
就活とは、これから先の自分の道を決める、ひとつの岐路。アドバイスをくれる誰かはいるかもしれないけれど、同じ目線で物事を見てくれる人はもういない中で、自分が選択して進むしかないのです。
私たちはもう、たったひとり、自分だけで、自分の人生を見つめなきゃいけない。一緒に線路の先を見てくれる人はもう、いなくなっちゃったんだよ。
これまでは親や学校の先生が一緒に考えてくれた。でもこれからの道は、自分以外の誰かに考えてもらうことはできない。
誰かに教えてもらいながら進むのではなく、自分で考えて進むしかない。
自動的に「小学生」から「中学生」というように名前が変わってきた私たち。だけど就職したら、自分から動かなければ名前が変わることもないのです。
これからは、もう自分で動かないと自分の名前って変わんないのかとか、いきなり思っちゃったんだよなー。俺、これから何もしなかったら、今の俺のままじゃん、これから先ずーっと。
そう、自分で選んで、自分で動いていくしかない。
結局、誰も何者にもなれない
自分じゃない「何者」かになんて、なれないのが現実。自分は自分でしかないんだから。自分が選んだ道を歩いてきた結果、今ここに自分がいるってだけなんだから。
ある日突然、住む世界が変わって見える景色が変わって…なんてことは、おとぎ話の世界。
自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を、理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ。
いつまでも冷静ぶって傍観者でいては、自分の人生、何も変わらない。泥だらけになりながら必死でもがき進まないと、理想に近づくことすらできない。
自分の人生なんて、誰も真剣に考えてくれない。誰かに頼っても、何かを待っていても、何も変わらない。カッコ悪くても構わない。
自分の手で、理想を掴みにいかなくちゃ。
カッコ悪くてもいいから進もう
クールでいることがカッコいいと思われがちな現代。この作品は、必死さを馬鹿にする風潮に向けた、朝井リョウさんの熱いメッセージなんじゃないかと感じました。
まず「自分はカッコ悪いんだ」と認めることがスタート地点。そこから這いつくばってでも進むことが、理想への第一歩なんだと。
ハッピーエンドではないと言われるこの作品ですが、私は清々しく読み終わりました。たぶん、主人公の心がすっきりと澄んだからだろうな。
就活中の大学生だけでなく、卒業して就職したサラリーマンにも勇気をくれる一冊です。
あわせて朝井リョウさんの代表作も、ぜひ。
ユキガオ
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